「亡くなった義母さん、キヌコさんが
 俺のギターを初めて聞いた時
 上手だってすごいって
 手を叩いて褒めてくれたから
 
 俺はもっともっともっとうまくなって
 何度と褒めてほしいと思ったんだ

 彼女の為に俺はギターを弾いてた
 
 彼女亡き今
 俺には必要なくなっただけ

 この手が思うように動かないだとか
 そんなことは関係ないさ

 もう弾く意味がないんだ」

「何よ、それ

 そんな悲しいこと言わないでくれる

 言わないでよ」


 強くなる口調とは裏腹に両方の瞳から次々に溢れ零れ落ちる涙を、私はこの手で拭わない。

 強い眼差しで彼方を見つめた。----涙で彼方の顔、輪郭がぼやけて見える。


「ユウ

 どうしておまえまで泣くの?」


 涙が流れる私の頬に、触れようと伸ばした彼方の手から私は一歩退く。


「わたしは何なの?

 カナタのギターに憧れて
 カナタみたいになりたくて
 
 小さなこの手が嫌で嫌で
 歯痒くて
 
 弦を押さえる指が痛くて痛くて
 たまんない日々」

「ユウ」

「それでも弾きたくて
 それを乗り越えて……

 カナタ、あんたのギターが
 大好きなのは
 キヌちゃんだけじゃないでしょう

 わたしだって大好きなんだよ
 
 好きで好きでたまんないの
 どうしてくれんの

 悲しいこと言わないでよ」

「ユウ、ごめん

 ごめん」