「また、お店、顔出さなきゃ
 ぜんぜん行けてないし」

「いいって、おまえ来たら店大騒ぎになる
 
 それに最近また、第二のユウを
 目指してる奴の弾き語りも増えた」

「そっか、そうだよね」


 4階で止まるエレベーターを降りると、ドキドキ、ドキドキ----今、403号室の扉が開かれた。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 彼方ってば嘘ばっかり、綺麗に片付いてるじゃない。玄関先、靴はきちんと収納されていてすっきりとしている。私は脱いだ靴を揃えて端っこに寄せ、出されたスリッパを履いた。

 彼方は買い物袋を持ったまま、片手で今朝脱ぎ捨てた服を上手に拾っては洗面所へと持って行く。


「適当に座って」


 引っ越しの時には無かった物が増え、そこはもう見慣れない空間----

 伯父さん家の、ギターの練習のために毎日通った、あの彼方の部屋とはまったく違う。

 とても洗練された、雑誌やドラマの一コマのようなお洒落な内装に緊張した私は、テーブルとソファーの間の床に正座する。

 閉め切っていた窓を彼方が開けていくと勢いよくカーテンは揺らめき、部屋の中に風の通る道ができた。

 流れる空気、清々しい----


「ソファーに座れば」

「あっ、うん」


 ソファーにはお洒落なマルチカバー、奥の部屋のベッドとお揃いのようだ。汚さないようにしなきゃ。