新譜の発売日も無事に終え、今のところ売り上げは順調。粗方の販売運動を終えた私は久しぶりに午後の休暇を頂いた。

 事務所に顔を出した帰り道、私は彼方に連絡を取った。----彼方は今日、伯父さんのお店のバイトは休みのはず。


『カナタ、今日だけど家行っていい?』

『ああ、いいよ

 今、実家、昼には戻ってる』

『シゲさんの店、出てるの?

 そっち行こうか』

『今朝呼ばれて、いつもの腰痛』

『じゃあ、また今度にしようか?』

『いやっ、いいから来て、13時でどう?

 部屋番号は、403』

『お昼、買って行くね』

『奢ってくれんの?』

『また~、うそうそいいよ』

『待ってる』


 待ってる----ドキドキ逸る胸

 
 彼方が伯父さんの家を出て一人暮らしを始めたあの日、引っ越しのお手伝いに借り出されたあの時から今まで一度も彼方の家には伺っていない。


 彼方の家の最寄り駅に、もう着いちゃってるんですけど……。時刻はまだ12時前----

 彼方、お昼ごはんは何が食べたいかな?

 時間がある私は駅に隣接されたデパートに立ち寄ることにした。

 初めて訪れる場所、ふと見上げた建物の上階、窓ガラスには幾つものお教室の宣伝、バレエ教室にパソコン教室……あっ!その中に音楽教室の文字を見つけた。


『ギターにベース教えます!』