「カナタ……」

「何?」


 私は、彼方に伝えたい言葉があるのに言えない。


「ううん、気をつけて帰ってね」

「おまえこそ」

「うん、じゃあね」


 タクシー乗り場へと向かう私の足が止まる。

 私が振り返ると彼方は思ったとおりその場に居て、私のこと見送ってくれている。


 私は意を決して、伝えたい事を彼方に言うの----


「カナタ、今度会いに行っていい?」

「ああ、ライブ……」

「違う!カナタの家に行っていい?」

「ああ、おまえはいいの?
 事務所に……」

「いいよ!

 行っていい?」

「ああ、いつでもおいで」

「連絡する、じゃあね」


 ドキドキドキドキ逸る鼓動

 その胸・心臓を左手に抱えて、正確には押さえて、私は慌ててタクシーに乗車した。


 手を振る彼方

 大好きな彼方

 諦めたはずの恋----加速させるのは、『よかった』と言った彼女の声。


 彼女、実花さんはきっと彼方のことが好きだ。初めて会ったあの日のライブも、きっと彼女は彼方のことを観に来ていたのだろう。

『もしかしてだけど、あの日のライブ出てましたぁ?』----あれは、嘘だと思う。

 連絡先も、何も知らない実花さん。だけど、彼女とはまた何処かで偶然出会うような気がする。

 そう遠くない未来に----