ディモルフォセカの涙

 言葉無く冷めた視線を送る彼方をジーッと見つめ返して実花さんは言う。


「怒った顔も素敵」

「言ってろ

 あー腹減った」

「私もペコペコ」


 アレ、何だかさっきまでとは違う----二人を取り巻く空気が、今この時変化した。

 ううん、あの人見知りの彼方が最初から素の自分を曝け出していること自体が、不思議。

 そういう私自身もだけれど、彼女・実花さんは相手の懐に飛び込むのがとても上手な人。

 易々と私達が引く境界線を越えてくる、それはもう自然に----運ばれてきた料理を口にせず、そんなことを考える私に彼女は言う。


「食べないの?」

「あっううん、食べるよ」


 私の頼んだ料理は、ふわふわなスフレパンケーキ。


「ユウさん、こういうの頼むんだ
 もっとクールな食べ物食べるのかと思ってた」


 クールな食べ物っていうのは、何?----

 私はふわふわの生地がつぶれてしまわないように、ファークを二本使って生地を切り裂く。

 メレンゲのふくらみはそのまま、最高な口あたり。


「美味しそうだね、ちょっともらっていい?」

「うん、どうぞ」

「ありがとう

 おいしい、口の中すぐ溶けちゃう」

「ほんと、おいしい」

「ねえ?
 
 こっちも食べてみて」

「ユウ」


 私の口元に差し出されたスプーンに在るエビグラタンを、何の躊躇もなく一口で食べる私。


「アツイけどおいしい

 カナタも、はい」