「カナタ、眼鏡貸して落とすよ」
「大丈夫」
そのまま、瞳を閉じる彼方。そんな姿を見つめるのは、私だけではない。隣に座っている女性はもちろん、店員さんまでも彼方に注目する。
「注目の的ね、いつもこんな感じなの?」
「はい、まあ、そうです」
「そうなんだぁ、困ったものね」
「もう慣れっこですけど
カナタも慣れっこだよね
初めて会った時なんていとこ全員で
カナタのことずっと見続けて
カナタ泣いちゃったんだよね」
またいつものように始まった過去の恥ずかしい思い出話に、閉じた目を開けうんざりした様子の彼方。
「何、昔のこと言ってる」
「泣いてる顔も可愛かった」
「うるさい」
ボソッとそう告げた後、彼方はきちんと指が揃えられた手を私の頬にそっと寄せるといつものように私の両頬をムギュッと抓んでみせた。
「痛いし、恥ずかしい」
唇を緩めてみせる彼方。
「ほんと、仲良しね
それにしても、ぷぷっ、おもしろい顔」
私の顔を見て笑う実花さんに彼方はまた意地悪を言う。
「笑うな」
「カナタのせいでしょう」
頬を抓む彼方の手をパシッと払う私を見て、実花さんはもう一度笑う。
「ふふっ、あっ」
笑う口元を隠す実花さんを、ジロリ見る彼方。

