ディモルフォセカの涙

 どうしたんだろう、彼方ってば……!確かに彼方は、初めて会った人には不愛想だったりする。だけどそれは、人見知りな性格が原因なわけで、あんな風に感情を表に出すことなんてなかったのに。

 彼方の手を引き、歩みかけた私の空いている方の腕に触れたのは、実花さん。


「ユウさん
 私もご一緒しちゃダメかな?
 
 お腹空いてるんだけど
 一人だと入れなくて……」


 私が彼方の方を見ると、彼方は自分と同じ理由でご飯を食べ損ねている彼女を無視できずに仕方がなくコクンと頷いた。


「うん、いいよ、一緒にどうぞ」

「美味しいところ知ってるんだぁ、私」

「じゃあ、そこで」

「ほんと美味しいんだよ」


 そう言うと実花さんは私と腕を組んでグイグイ歩いて行く。

 放れた彼方の左手には、私とお揃いの指輪。

 私達の後ろを歩む彼方に振り返り実花さんは言った。


「もしかしてだけど

 あの日のライブ出てましたぁ?」

「うるさいよ」

「ふふっ」


 あなたなんか知らない----貴方等、眼中に無いと言わんばかりに勝ち誇り、笑みを浮かべる彼女。

 その瞳の奥は笑わない。


『……お揃いの指輪してる』----彼方の左手の甲、中指に在る指輪まで伸びる傷痕に、実花さんは気づいただろうか。

 ----知らぬふりをして深呼吸をひとつ。


「ふう」

「ミカさん?」

「もうすぐそこよ」