中性的ではあるが彼は紛れもない男。

 男は顎もとにずらした黒いマスクの片耳だけを外し、黒の皮手袋を付けた手をマイクスタンドにかけた。



「ありがとう」 

 
 それだけ述べると、さっさと奥へと引っ込むのだった。

 この場を後にした彼のマイクに、今度は赤い唇を寄せ話す男の姿が私の目に映る。


「近く、……でもライブやるんで
 遊びに来てよ、よろしく」

「キャーー」


 場内に再び湧き上がる歓声。公演を終え手を振ってこの場を去るメンバーを見送る観客たち、隣の客のメンバーの名を呼び叫ぶ声が耳に痛く私は両手で塞いだ。

 すると、こもる音----俯いて目を閉じ集中して聞くと、海の中、潜ると聞こえる音がして私はホッとする。
 
 そんな私の額から滴り落ちる汗、唇に頬にとくっついたボブの暗髪を指先で後ろに流し耳にかける。ピタリと太腿に纏わりつくズボン、シャツの中、背中にも流れる汗を感じる。

 今宵のライブは無事終了、ならば一秒でも早くここから出たい!外に出たい!早く、早く----しかし、全くといっていい程に進まない私の足元。

 ライブハウスとは言え、いつもよりもキャパ(収容人数)が大きい=観客も多数。

 少しずつ少しずつ----