ディモルフォセカの涙


「それがまかり通る変わった世界で
 おまえは生きてる
 
 だからユウ、おまえは歌でそれを見せる
 それだけの話」


 歌でそれを見せる----私が描く歌の世界を見せる、それだけの話。


 私の悩みってば何だったの?彼方ってばすごい!


「そっか、それならできる」

「そっ、ところで
 こんなところに居ていいの?」

「ああ、うん……」


 彼方を探していた時のように辺りを見渡すが、どこにも知った顔はいない。


「いいんじゃないかな、誰も追って来ないし
 
 ねえ、カナタ、この後時間ある?」

「ああ」

「なら、どこかでお茶しようよ
 奢るからさ、行こう」

「お茶と言わずに飯、食べさせてよ
 始まるの遅くないか」


 そう言うと彼方は、立てかけてあるイベントを知らせるスタンド看板を指でついた。


「うそ、まだお昼(ご飯)食べてないの?」

「ああ」


 歩み出した彼方について行きながら、私は子供に言って聞かせる母親のような口調になる。そんな私達と行き交う親子連れ。


「食べる時間ならあったでしょう」

「一人では無理」

「私に会えなきゃどうするつもりだったの」

「コンビニ寄って帰って食べる」