ディモルフォセカの涙

 何も知らない私がいつまで続けて行けるだろう……

 人の胸を打つ楽曲を作れる日はくるのだろうか?

 私は、とても不安……


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 ショッピングモール内に響き渡る歌声に、ふと足を止める人々----

 私の歌を聞きたくて、雨降る日曜日にわざわざ足を運んでくれたファンの人達、席がなく遠くの方まで立ち見で観てくれるファンの人達、この場所で初めて私の存在を知って私の歌を聞いてくれるたくさんの人々。

 ありがとう----

 私は大好きなギターを弾きながら、大好きな歌をうたう。

 雨雲なんて吹き飛ぶほどに、明るくポップな恋の歌を私は歌う。

 拍手喝采、大歓声の中、歌い終えた私はステージを去る。そんな私の視界に映る人がいる。ずっと向こう、買い物客に紛れて立つ人。

 柱の前、とても絵になる男----

 速足でスタッフルームに戻った私は戎家さんの話も何のその、着替えをすることもなく上着を羽織り帽子と鞄を手に取った。


「ユウ……」

「後で事務所に戻ります」

「ユウ、あなた、どこへ行くの?

 待ちなさい、ユウ」


 帽子を深く被った私は駆ける。まだファンの人がたくさん居るだろうその場所に、ただ会いたくて、私は立ち止まり辺りを見渡す----そして見つけた。


「カナタッ!

 来てくれてたんだ、話してた今日のこと?」

「ああ、言ってたよ」

「そう、心配して来てくれたの?」