ディモルフォセカの涙

----

『カナタ、寒いから窓閉めるよ』----春なのに、夏みたいに寝苦しい夜になったのは、その窓をピッタリと閉めた、ユウのせい。

 毎夜毎夜、俺の元に現れては、こうして、俺の部屋で君は眠る。

 自分以外の誰かの寝息が聞こえる夜は、怖いことの全てを忘れることができた。

 例え、怖い夢を見たとしても。

 フラッシュバック----壮烈な事故の記憶。

 止まらない血液、気を失うほどの痛み、刻み込まれた深い傷痕。

 恐怖に支配される脳----壊れた思考は、悪い方向にばかり考えを巡らせる。

 それは、止まない……

 暗く、深い沼へと堕ちてゆく俺の夢の中、君はいつも現れる。

 そして、この傷ついた左手に触れ、しっかりと繋いでそちら側へと引き戻してくれる。

 見えた、明るい光----それは、ユウの笑顔。


「大丈夫だよ、カナタ

 わたしがいるよ」


----そして、悪い夢、消えた。


「ユウ……」


 俺の唇に触れるもの

 俺の頬にポタリと落ちるもの----眠る俺は、気づけない。


『恋するのはやめた方がいいでしょう』

『だって、病むだけでしょう……』 


「入る余地、なし」


『ユウを好きなヤツばかりじゃない
 ユウを傷つけるヤツもいるかもしれない』


 ユウを傷つけるヤツは、赦さない!

 
 俺の部屋の扉が今、静かに閉まる----