「キャーー」


 止む音と共に一斉に響き渡る歓声、その女性達の甲高い声は共鳴し、あのデザイン照明のガラス玉を今にも振動で割ってしまいそうな勢いだ。

 そう、私が居るこの場所はライブハウス。入口の壁に張り巡らされたチラシで告知されたプロアマ紛れて集結する、今注目のバンドが各々のステージを熱く繰り広げる様を観ていた。

 箱(建物)の中に犇めき合う人々は、上げた手を下ろす場所さえなく踏み出した足も戻せない。他人に身を預け自分の意思とは関係なく動く体。

 だけど、その方が楽で居られる。この場で逆らうことは死を意味する。ここでいう死は、落ちること、失神すること、倒れること、より一層気分が悪くなるということだ。

逆らわない方がまだマシかなと……これは全て私の見解ではあるが。

 そんな苦痛とも言える場所から見上げるは舞台・ステージ。そこには、女性のように綺麗にお化粧を施した男達が各々の楽器を手に持ちとてもカッコよい。

 中でも、その中央に立つ男は別格の存在----

 目の辺りを黒く塗りつぶし服の上には合皮のハーネスベルトが首から腰、太腿と体を拘束する。見るからに何とも息苦しい装いをしているがとても似合っている。
 
 頬にかかる無造作な黒髪が端正な顔立ちを隠し、襟足にかかる髪から色気すら感じる。