ディモルフォセカの涙


 黙ったまま俺のことを見つめる、その表情は、何か不安に取りつかれてしまったのだろうか、見る見るうちに蒼褪めてゆく。

 とても辛そうな表情----彼女の唇が動く。


「アークトティスは、私の父のバンド
 
 そして、ギターリストは山河大輔

 私の父よ」

「そう、か……」

「あんまり驚かないのね」

「ああ、ユウからウサギの人形
 の話を聞いた

 君の知り合いの男性の
 ギターケースに付いていたと」

「なら、話は早いわね
 
 そうよ、その人は太田和彦

 父の最初の奥さんとの間の子供

 私と、貴方のお兄さんよ」


 母親の違う兄に、妹……


「兄と妹が一度にできて
 それはさすがに驚くわよね」

「ああ」


 話の展開に付いて行けそうにない俺を見兼ねた彼女は、サッとその場に立つとテーブルに置かれたままのマグカップを手に取った。


「紅茶、冷めたから
 淹れ直してもいいかしら

 カナタさん、貴方も飲むでしょう?」

「ああ、ありがとう」


 シンクへとさげたマグカップを軽く濯ぎながら、彼女は言う。


「本当、困ったものでしょう

 あの人には、王……
 兄も私も手を焼いているの

 自由奔放に生きていて
 今では音信不通

 いつ戻るかも、このまま
 戻らないかもわからない」