ディモルフォセカの涙


『ディモルフォセカです』


 多感な年頃の私は、父とはすれ違う日々を送っていた。

 何の面白みも感じないつまらない日々に嫌気が指していた私は、こっそりと家を抜け出しては、夜の街で出会った仲間に紛れてライブハウスに居ついてた。

『ディモルフォセカ』----そこで初めてその名を聞いた時、父が音楽教室の名前を決める時にその名と今の名を迷っていたことを思い出した。

 父の好きな花の名前……その花の名と同じバンドはどんなバンドでどんな音を出すのだろう?

 興味を持った私が見つめたステージ----

 中央で歌う、その人よりも遙かに目を引くギターリストの存在。

 ギターをあんなにも上手に、ううん、あんなにも愛しく弾く人を私は初めて見た。

 滴り落ちる汗でさえ、キラキラと輝き、私の胸を衝撃が走る。

 他人の演奏で感動するなんてこと、私は今まで一度もなかった。

 構って欲しくてたまらないほどに大好きな父よりも、私にはもっと大好きな人ができた。

 それなのに、あっちにこっちにと他人にばかり優しい父親のせいで、私は諦めなきゃいけないの!


「そんなの、嫌

 絶対にイヤ!」


 私は一人、夜の街を駆ける----カナタさんに会いたい。

 貴方が今居る場所は、知っている。だけど、そこへ向かうのはやっぱり違う。