床に散らばった、音楽教室の紹介誌……開かれたページには、ユウの歌う姿が全面的に大きく掲載されている。その冊子に触れようと伸ばした手。
「触らないで!
手助けは要らないわ、一人で大丈夫」
「そうか……」
帰りかけた、王の足が止まる。
「まだ何か?」
「彼女に、あのウサギあげたのか?
彼女のギターケースについてた」
王が実物を見てそう言うのなら、やっぱり間違いないのね。
「私達と同じものだった?」
「ああ、どうして彼女が?」
「王、あなた知ってる
ハルコ先生のお子さんに
会ったことはある?」
「ああ、一度だけ
確か、男の子だったはず」
「そう、やっぱり
母親の違う兄弟がまた一人
増えたわね、おめでとう」
「兄弟!?そんなわけは……」
「話はお終い
もういいから、早く帰って!」
私は、王の腰元に手をやって、この部屋から彼を追い出す。
「彼女はマネージャーと一緒に
帰らせたよ
あの調子じゃ社長さんにこっ酷く
怒られるんじゃないか
今日は自宅に帰るらしい
伝えたからな」
「ありがとう」
教室の外の廊下に佇む私は、やっと帰って行く王の後ろ姿を見ている。すると彼は、またその場に立ち止まり振り返る。
本当に、昔っから諄い奴だ!