ディモルフォセカの涙

「わたし、帰るね」


 彼方との時間は、ほんの少しだけ----まだまだ話したりないのに、今度はいつ会えるかも分からないのに、でも私は帰らなきゃいけない。

 玄関先で靴を履く私に、彼方は言う。


「ユウ、家には帰ってないんだろ
 
 ヨシコさんが郵送物が戻って来て
 心配して俺に連絡してきた

 うまく話しておいたけど
 ちゃんと連絡しろよ」

「うん、わかった

 カナタ、ありがとう
 本当に今日は助かったよ

 でも、よくあの状況がわかったね
 
 そんなに大きく取り上げられてるのかな~
 わたしのこと……」


 紹介誌に私の写真が誤って掲載されて、どこからか今日のクリスマス会の情報が漏れた。

 それはいったいどこからで、ネット上ではどんなふうには騒がれているんだろう。

 あれだけの人が教室に集まったんだもの……考えを巡らせては、どんどん不安になる私に彼方の声が聞こえた。


「ユウ、俺は駅で偶然話を聞いて
 彼らの後をついて行っただけのこと

 もう、事務所が対処してるだろうから
 おまえは何も気にすることないさ」

「うん、そうだね、ありがとう
 
 じゃあ……」


『またね』----その言葉を、私は言えないでいた。また、彼方に会えるのだろうか?


「ユウ、本当に送らなくていい?」

「うん、大丈夫」