ディモルフォセカの涙

 
 愛しくても、触れられない……

 
 私が、彼方のギターを大切に預かることにした。

 昔も今も、彼方のギターケースにぶら下がるウサギ。その存在に、私はあることを思い出した。


「カナタ、このウサギのマスコットだけど
 ミカさんの知り合いの人も持ってて」

「誰?」

「太田さんていう男の人

 その人のギターケースにもこれと同じ
 白と黒のウサギのマスコットが付いてた」


 実花さんの話ではこの兎は、実花さんのお父さんのバンド『アークトティス』のロゴ的・マスコットで手作りのため、非売品であるらしく世間には売られていない。


「アークトティス

 彼女の、父親のバンド?

 確かにそう言ったの?」

「うん

 太田さんがなぜ持っているのか
 それは聞いていないけど」

「そう……」


 彼方は、何か考えているようだった。


「カナタ、どうかした?」

「いやっ」

「カナタのお父さんも確か
 有名なギターリスト……」


『アークトティス』もまた、有名なバンド----何かが、分かりそう……。


「ユウ、それより時間は
 いいの?」

「あっ、うん……」


 何も持たずにここに来た私と連絡が取れずに、実花さんはきっと心配しているはず。

 騒動はもう落ち着いただろうか。