ディモルフォセカの涙

『誰に止められても私は見に行くよ!!師匠のライブは必ず!』----あれから一度も見に行けていないのが、現実。

『面接』----


 シャツの袖を捲りながら現れた彼方は、床に座る。


「ズボン、履き替えたら」

「後でいい」


 そして、セットした髪を手櫛でボサボサにする。


「疲れた、ああいうの苦手だ」

「面接のこと?」

「ああ」

「カナタ、面接って
 その恰好からして
 バイトじゃないよね?」

「ああ、いい歳だし定職について
 働こうと思って

 でも、これがなかなか難しい」


 何社も断られているようで、彼方はとても疲れた顔をしていた。


「クリスマスなのに面接するんだね」

「そういうの

 社会は関係ないんじゃないの
 普通は」

「そうだけど、年末だよ
 
 無理することなんてないよ!

 ゆっくり探せば……」

「何、俺を働かせない気ですか?」


 彼方はグラスの氷を口に含んで、音を立てて噛み砕いた。


「だって、音楽やめるの?」

「ああ、それなら

 もう半分やめてる」


 仕事が決まれば、バンドを脱退する話は章さんとの間で決まっているらしく、音楽にはもう何の未練もないような顔をしてみせる、彼方。