ディモルフォセカの涙

 だって、私と彼方の付き合いはそれぐらい長いんだもん、当たり前だ!

『付き合い・長い・当たり前』----そんなこと関係ないこと、本当は分かってるくせに、私は彼方との間に何故かワンクッションを置きたがる。

 私は、自分の本当の気持ちと向き合わないようにしてる。それはもう、一生懸命に!
 
 彼方との間に、しっかりと境界線を引かなくてはいけない!それは、誰のために。


『カナタから離れて忘れてよ』

『ユウ、彼に連絡するの?同じこと、繰り返すんだね……そんなのつらいよ』


「ユウ」----私の名を呼ぶ、実花さんのために……実花さん?

 そうだ、あの後、音楽教室はいったいどうなったんだろう?

 クリスマス会……忘年会……

 上昇するエレベーターの中で、私は忘れていたこと、そのすべてを思い出す!


「ユウ、降りて」

「カナタ、わたし」

「少ししたら帰ればいい」

「うん、そうだね」


 今回は彼方に助けてもらっただけのことで、実花さん、あなたを傷つけたりはしない。

 私の愛は変わらないし、変えない!だから大丈夫。

 実花さんの本当の気持ちを知らない私は、彼方の部屋の扉を閉めた。


「座って」


 部屋はあの日と同じままに洗練された雰囲気、ソファーのマルチカバーだけがあの日と違っていた。

 ベッドカバーも違う……?