ディモルフォセカの涙

 何か話さないと、この沈黙を今すぐ破らなくちゃ!----その時、私は扉に映る自分の姿に目を留めた。

 私は、長い髪をしている。


「そう言えばカナタ、コレ
 よくわたしだって気づいたね」


 ウィッグの髪に触れる私を見つめながら、彼方は言う。


「気づくさ

 見間違える方がおかしい」


 私の目を見ながら話す彼方、その綺麗な瞳には今、私だけが映っている。----そう思ったら、何とも言えない気持ちになる。

 この、気持ちは……

 私はその気持ちを本当は知っているくせに知らないふりをするのが、やっとで……


「そう

 そんなもん?」

「ああ」

「そっか、そっかぁ」

「何?」

「うっ、ううん、えっと、そうだな~

 わたしは分かるかなぁと思って
 カナタの髪が長くても……」

「俺は伸ばさない」

「あっ、そうだよね、アハハ」

「(エレベーター)来た、乗ろう」

「うん」


 私、一人で何を言ってるんだろう……ドキドキして可笑しくて。

 だけど、『気づくさ、見間違える方がおかしい』----彼方のその言葉を、ものすごーく嬉しいと思ったことだけは分かる。

 どんな姿の私でも、彼方は見つけ出してくれる。