ディモルフォセカの涙

 警備員さんがいつも以上に多いのは、街がクリスマスで盛り上がってるせい……実花さんは悪くなくて、この状況を招いたのは私だ。


「悪いのはわたし」

「何言ってるの、ユウは悪くないよ
 
 アーティストとしてのユウの人気が
 すごくて、悪いだけだよ」


 アーティストである、私の存在が悪い……マナちゃんや生徒さん達もこの状態に困惑している。


「ここに居るみんなに
 迷惑をかけたくないし

 ここに集まってくれたみんなにも
 怪我したり、してほしくない
 
 だから、一曲だけやります

 ミカ、ギター貸してくれる」

「うん、私もフォローするね」

「お願い

 クリスマスに、一曲聞いてください」


 私は今、自分ができることをする。

 実花さんと一緒にギターを奏でて歌う。それは、最初で最後のセッションになると二人は思っていた。

 音楽教室が入る建物の前に横付けされたタクシー、そこから降りる人は遣り手の敏腕マネージャーの芝野さん。彼は「関係者です、開けてください!」と人々の脇を上手にすり抜けて教室の前へと辿り着いた。

 二人が奏でる音楽に、つい聞き入ってしまった芝野は声を漏らす。


「これは、すごい

 彼女、意外とスゴイ」