ディモルフォセカの涙

「ユウ」「ユウ」「キャー、本物だよ、カワイイ」----私を取り囲む人の数はたくさん、私はこれでも変装しているのに、どうして、この人達は私がユウだと分かるのだろう。


「これは、いったい何?」

「皆さん、それ以上は近寄らないで
 警備員さんの指導に従ってください
 
 演奏の邪魔になるので

 ユウさんの演奏、皆、聞きたいでしょう

 だったら、ほらっ、静かに」

「ミカ?」

「ユウさん、ごめんなさい
 
 誤ってこの間のワークショップ
 でのユウさんの写真
 
 紹介誌に大々的に掲載してしまって

 ファンの人の目に留まってしまったみたい」


 実花さんは、その事が分かってから自分なりに対処したがどうしても無理だったようで、今回のクリスマス会の情報も「何処からか漏れてしまったみたいだ」と話す。

 それで、最近の実花さんは元気がなかったの?

 情報を知り、教室に押し寄せた人達は、全てが私のファン。

 実花さんの大切な教室が、今、大変なことになっている。

 私の存在のせいで……

 私は、この状況を目の当たりにして、本来見るべき場所を間違っていることに気づけないでいた。

 紹介誌に掲載されたのは誤りのせいで、今日のクリスマス会が漏れたことも、このネット社会ではあり得る話。