ディモルフォセカの涙

「私には言えないこと?」と私が訪ねると、実花さんは「教室のことでちょっとね」とだけ話してくれた。

 幾つもの難題を抱えているだろう実花さん。私は、そんな実花さんを心配することぐらいしかできない。

 疲れている実花さんの隣に、寄り添って眠ることしかできない。

 触れ合うのは手と手、そして、おやすみのキスをひとつだけ。


 そしてクリスマスイブを迎え、私は実花さんから「外食をしよう」とお誘いを受けて、待ち合わせ場所の音楽教室に来ていた。

 商業施設の建物の前に立つ実花さんとマナちゃんの姿に、二人の元に駆け寄ろうとした私に聞こえる、マナちゃんの声。


「本当に良かったんですか?

 あの写真、みんなが……」

「いいのよ

 明日がたのしみね」

「はい、先生

 では、明日」


 駅へと向かうマナちゃんは私の姿に気づくことはなく、一人その場に残された実花さんは私が来るのを待っている。コートの襟を立て、自分の足元を見つめる実花さん。

 こんなにも近くに居るのに、あなたは全く気づかない。

 その様子をこちら側からじーっと見つめていると、顔を上げたあなたの視線と私の視線が今バッチリと重なった。

 私を見つけてニッコリと微笑みながら、私に手を振る実花さん。