「ユウちゃん、ここどうぞ」

「はい」


 私に空いている隣の席を勧めてくれたのは、彼方のバンドでギターを弾く、章(ショウ)さん。彼方とは一番付き合いが長く、私も気心の知れた間柄。

 ファッションはもちろん音楽的にも抜群のセンスがあり、とても花のある人だ。容姿端麗、女性にはとことん優しく人気者、彼方の親友でもない限り私なんてとてもとても近づけない存在。


「駄目だ

 ユウ、お前はこっち」

「あっ、うん」


 脱いだサンダルを左右並べて置く私には、彼方と章さんの間の悪戯な目配せには気づけない。

 前の席、体を少し乗り出して彼方に近づく章さん、彼は赤い紅を落とした唇で小声で言う。私にはその声は聞き取りにくい。


「相変わらず、(近づけない)ねぇ」

「うるさいよ」


 近づけない----


 時間を忘れて仲間と酌み交わすお酒の席はとっても楽しくて、私はついつい飲み過ぎてしまう。すると、どうしても御手洗が近くなるわけで。ついでに火照っているであろう顔も気になるので鏡をチェックしてこよう。


「……

 ほんとそうだな、くじ引きでトリ(最後)なんて
 いい顔してない奴いたぜ」

「でしょうね」

「でも、引いたの誰よって話……」


 今日のライブのあれこれを話している章さんと彼方の会話を遮らないように、席を立とうとした私の手にサッと触れる彼方。


「どうした?」


「ごめん、わたしちょっと」


 その場を離れる私の背を見つめる視線がある。