「ああ、これ、これは非売品だよ

 父のバンド・アークトティスの
 マスコット……」


 実花さんが以前話して聞かせてくれた、お父様のバンドは『アークトティス』----そのロゴ的な役割のウサギ。

 
「まあ、知ってる人は知ってるけどね

 だけど、これは手作りのはず

 これが、どうかした?

 草臥れて汚い……」

「カナタが、持ってる

 それと同じウサギ

 カナタのギターケースについてる」

「カナタさんが、嘘でしょう

 嘘……」


 その場にしゃがみ込む、実花さん。


『ミカも持ってなさい、家族の印に』----父にそう言われて、ハルコ先生から手渡されたウサギのマスコット。

『ミカさん、レッスンしましょ』


「ミカさん、どうしたの?

 気分悪いの、帰ろうか?」


『とても似てる花があるの……大好きなの、その花が……』

『アークトティス』----


「うん、帰りたい

 今すぐ眠りたい」


 この事実から目を背けるように、実花さんは何も話さずに目を閉じる。

 実花さんは何かに気づいたのだろう……それが何か私には分からない。