「王、毎年、この日だけは無礼講なの
 あなたも知ってるくせに

 それより、来てくれたんだぁ、助かるぅ

 先生が一人来れなくなっちゃって……
 後の演奏にも、是非付き合ってよ
 
 よろしく」

「何、この面倒くさい展開」


 ものすごーく迷惑そうな顔をしてみせる太田さんと、今、目が合った。

 いつもの私ならば、男性に自分から声をかけたりはしない、けれど……。


「オオタさん、そう言わずに今日は
 よろしくお願いします」

「えっと、君は?」


 長いストレートのウィッグを被り、眼鏡と帽子で変装した私の顔をじーっと見つめる視線。


「ああ、お嬢の彼女」

「はい」

「えっ!、そうなの
 
 そうなりましたか」

「はい、だめでしたか?」

「そんなことはないよ

 でも……」


 話の途中で口ごもる彼に、私はこの間、彼から聞いた忠告を言う。


「気をつけた方がいい?
 ですよね、確か

 大丈夫です」

「だといいけど

 何か困ったことがあれば
 いつでも俺に相談して……」

「優しいじゃない、王

 ユウのこと、気に入ったんじゃないでしょうね」

「ミカッ!」


 私が自分の胸の前で腕を交差させてバツを作って見せると、実花さんは「いけない」と、自分の口を手で押えた。