ディモルフォセカの涙

 そして、しばらくの間仕事がオフになった私は、事務所とは連絡を取りつつも、休日の大半を実花さんと一緒に過ごしていた。

 そう、あの日に自宅に戻ったきり、私は一度も帰っていない。

 毎日、私と一緒に居られることを『うれしくてたまんない』と言って、はしゃぐ実花さん。

 そんな実花さんを前にして、いつもはできない部屋の片づけや年末の大掃除をするために、『たまには自分の家に帰りたい』とはとても言えない。

 主の居ない家に届く郵便物は、ポストに溜まる一方だろう。

 私はとても気になるけれど、『何かあれば連絡がくるでしょう』とそう実花さんに言われて、私は何も言えなくなるのだった。

 実花さんが仕事の日に、『ちょっとだけ帰ろう』----そう思ったまま、今に至る。

 この窮屈さを感じないふりして、我慢する私。

 そんな私の世界は、どんどん変わる。
 

「フー」

「ユウ、疲れた?」

「ううん」

「ひと休みしよう、今、お紅茶淹れるね」

「うん、ありがとう」


 私はいつも、実花さんの授業が終えた頃に音楽教室にお邪魔して、ワークショップの準備を手伝う日々を送る。