勢いよく歩き出したせいで、ヒールが折れてしまった。

 振り返った貴方は、そんな私を見兼ねてハーッと深い溜め息をついた。


「悪いんだけど、駅までは
 一緒してもいいでしょう」

「勝手にしろ」


 駅まで----それは、貴方の住む家の最寄りの駅までだよ。

 だって私達、ご近所同士だもの。(正確には音楽教室と、貴方の住む家がご近所)


 私の降りる駅を知った貴方は、嫌な顔をするどころか私と一切話をしなくて済むように椅子に深く腰を掛けて瞳を閉じた。

 隣の席に座った私は、じーっと貴方のことを至近距離で見つめている。その綺麗な横顔を。

 私の熱視線を感じるのか、貴方は眠りながら眉間にしわを寄せた。


「カナタさん……」


 私がそう呼ぶと、貴方は瞳を閉じたまま問うた。


「何?」

「何でもないです」


 私はやっぱり、貴方が欲しいよ。


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