ディモルフォセカの涙

 ずっと考えていたこと、私の中にずっと在った想い----真剣に話す私の頭をこれでもかってぐらいにゴシゴシ撫でる彼方の大きな手。


「何、真顔で馬鹿言ってんの
 
 天下の岸口ユウがわざわざ
 庶民のところまで下りてくることない

 それに俺らは俺らで楽しくやってる
 
 どうぞ邪魔しないで

 女なんか入れてみろよ、ファンが泣くよ」


 邪魔しないで----彼方の長い指先が私の頬をむぎゅっと抓む。手袋のせいか少しも痛くない頬、悪戯に微笑みかける彼方に私はそのまま問う。


「もし今のバンドで、もっと有名になれたら
 本気で音楽続けられる?」


 私の頬から放した手で今度は帽子のつばに触れる彼方。つばから除く彼方の冷めた目は遠くを見つめ、無表情な顔はいつも以上に血の気がなく色素もない。

 まるで私の部屋に飾られた球体関節人形のように、儚く愁いを帯びる。


「余計なお世話だ、もうこの話はお終い

 ところで靴、どうにかしなきゃな

 痛くないか、足?」

「痛いよ」

「そういうことは早く言う」


痛いよ----痛いのは足だけじゃなくて、胸が痛くて、苦しい。


苦しいよ-----


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『カナタ、よく飽きずに毎日ギター弾けるね?』

『俺にはこれしかないから』

ギターは、彼方の大切な一番の友達だった。