ディモルフォセカの涙

 彼方の言葉に歩む足を止めた私、そのせいで彼方と繋いでいた手が解けた。立ち止まり振り返る彼方に私は今まで聞きたくても聞けずにいたこと、一番知りたいことを聞いた。


「ギター、もう弾かないの?」

「ああ、この手じゃムリでしょ」


 考える間もなく呆気なく返ってきた答え、彼方の中ではもうずっと以前に答えが出ていたようで、彼方は、黒い革手袋をした左手を頬の傍でササッとはらってみせた。そう手袋の下、彼方の手には何針も縫った深い傷痕が刻まれている。


「でも、弾けてたじゃ(ない)」


 彼方はまた、一歩二歩と歩き出しその寂しい背中は語る。


「あんなの弾けてるとは言えない

 リハビリにでもなればと弾いてみただけ……

 ほらっ、行くぞ」


 待って、待ってよ。----私から、その事柄から背を向けて逃げるように私の前をスタスタと歩む彼方、歩幅が違い過ぎて追いつけない、彼方に触れようと伸ばした私の手----立ち止まった彼方の背にそっと触れる。


「俺にはもうユウに教えることはない

 まあ、音楽からはまだしばらく
 放れられそうにないから
 もうちょっと足掻いてみるわ」

 
 私は触れる手で彼方の着ている服をギュッと強く握りしめた。生地が伸びでしまいそうな程にきつく。


「私じゃ

 ダメかな?」

「何が?」

「カナタの隣でギター弾くの、どうかな?」