ディモルフォセカの涙

 誰もが知っている有名アイドルの専属マネージャーを、何年間も続けてきた敏腕マネージャーだと紹介される。


「ユウさん、どうぞよろしくお願いします
 一緒に良いお仕事をしていきましょう」


 私の前に出された右手、その手に触れた私の手の上に、彼はもう一方の左手を添えてギュッと強く握りしめた。緊張する私に見せた彼の屈託のない笑顔。


「はい、よろしくお願いします」

「ユウ、ちょっと

 二人きりで話があるわ」


 社長室に入るなり戎家社長は、私が手に持っているスマホを指差しながら問いかける。


「その待ち受けの彼と何かあったの?
 画面を見ながら思いつめた顔して

 彼は確か、あなたの憧れの君だったわね」

「憧れの君だなんて!
 
 カナタは、従兄……」

「それだけではないことは
 あなたとずっと一緒に居ればわかるわ
 
 ライブハウスにだって彼に会いに
 毎度毎度通って……」

「もう行ってません!」

「そうだったわね
 
 それは信じているけれど
 ライブハウスに行かなくなった
 
 それはもう、彼のことは
 諦めたと取っていいのかしら」


「……」----沈黙が続き、答えられない私に社長は、私の恋愛のことをどうこう指図するつもりはないとしながらも、「今は私にとって一番大切な時だ」と話を続けた。