「ユウ、買い物してきたの?」

「ああ、忘れてた
 お土産のチョコレート
 一緒に食べようと思って」

「チョコレート、いいね」


 紙袋の持ち手を少しだけ広げて中を見た、実花さん。
 

「わー、缶入りだね

 カワイイ、缶」

「でしょう
 
 ミカは、どっちの色がいい?」


 袋の中には、水色とピンク色の缶がある。----実花さんは、きっとピンク色を選ぶだろう。だから、私は大好きな水色の缶を持って帰ろう。


「水色がいいな」

「そっ、か、水色好きなの?」

「ううん、別に好きでも嫌いでも
 ないよ

 カワイイ缶だね
 小物入れにできるね」

「そう思って買ったの」

「お揃いだね」


 好きでも嫌いでもない----そう、はっきりと言える実花さん。私は、大好きな水色の缶が欲しいとはどうしても言えなかった。

 私は、これから言えないこと、どんどんどんどん増えてゆく。

 
 あなたに、会いたいよ----

 
 偶然ならば、許される。----私は、何に(誰に)許されなきゃいけないんだろう?

 彼方……それとも、実花さん……

 彼方に会いたい、会って話がしたい。

 彼方の声が聞きたい。

『おまえにだけなら弾いてやれる』----彼方のギターの音色は、聴こえない。

 
 聞こえない----電車の音にかき消された、貴女の声も。