ディモルフォセカの涙

「ユウ

 もういい、黙って」


 彼方に注意されて黙る私の視界には幾つもの光----そう、夜の車道を賑わせる車の数だけライトが光り輝いている。それにしても最近の車のテールライトはいろいろハイセンスなこと。あれもこれも目がチカチカする、まるでロボット。----そんな風に考えている私にタクシー運転手さんの声が聞こえた。


「お客さま、どちらまで行かれますか?」

「ああ、

 ……までお願いします」

「お願いします

 ……

 みんなは来るの?」

「さあ、疲れた

 着くまで瞑想するわ」

「瞑想って……」


 椅子に深く腰掛けた彼方は私の手を強く繋いだまま静かに目を閉じた。
 
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 ずっとずっと遠くに、私達を乗せたタクシーを最後まで見送り続ける視線があること私は知らない。


 風にひらりと靡く髪

 それは彼女の長い髪

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 しばらく道なりに走る車、退屈な私は窓の外に流れる景色を黙って見つめていた。とても静かな車内、ふと運転手さんの視線をバックミラー越しに強く感じた私は帽子を深く被る。


「あの、ところでお客さん
 あなた、たしか有名な人?」

「いえっ、違います!」


 即答する私はやっぱり変なのか、質問されることわかっていたようなもの。----運転手さんは全く悪びれることなく話を続けた。