「…っ。…………嫌い。」



夕焼けに染まる廊下。重なる影。

噛みつくような荒々しいキスからようやく解放された私は、乱れた息のまま呟き
目の前のあいつを睨み付けた。



「……そーかよ。」

「嫌い嫌い嫌いっ!」

「なら、なんで嫌がらねーんだよ。」



じっと私を見下ろす瞳は冷たくて、口調も荒い。
なのに私の腕を掴んだままの手は熱くて。


……無性にいらいらする。


欲しい言葉はくれないくせに
逃げようとすると追ってきて、離そうとしない。


なのにいつも私を試すようなことを言う。


そんなあいつにたまらなく苛立って
その頬に一発、平手打ちをかます。


ぱしんっ!


乾いた音が響く。



右手が痛い。


……それよりもっと胸が痛い。




「……気、済んだかよ。」


私はこんなに痛いのにあいつは蚊にでも刺された程度の反応。
涼しい顔で、吐き捨てるように私に呟く。


「皐月(さつき)なんて、だいっきらい。」


「だからって、逃がさねーよ。」


腕を掴んでいた手が腰にまわり、強い力で引き寄せられる。


「……やだっ。」

「本当に嫌ならもう一度殴れよ。」

「…こういうことしたいだけなら、別の子として。」

「…………黙れ。」


その言葉に皐月は苛立ったように眉間にシワを寄せて、また私の唇を奪った。





……こんな、


欲求解消のためだけの相手になんてなりたくない。


私は、私がなりたいのは…。



「っ、ふ……」



苦しくて涙が滲む。


息がなのか、胸がなのか。





……多分、両方だ。