って……いきなり、なに?
同じく立ち止まった私はその手の意味が分からず、大きな手と久我さんの顔を交互に見てから首をかしげる。
「なんですか?」
「手、つなぎたいんだろ」
え……?
つなぎたい、けど。
先ほどの彼の拒否を思い出し、その手を取るのを拒む。
「だってさっき、ダメって言ってたじゃないですか……」
「あれは会社の中では、って意味だ。誰かに見られて、公私混同してると思われたくないからな。けど会社の外なら別だ」
公私混同……。誰が見てるかわからない、っていうのはそういう意味だったの?
じゃあ、久我さんは私自身を拒んだわけじゃなかったの?
「つなぐだろ?彼女なんだから」
『彼女』……。
彼が言ってくれたその言葉に、つい先ほどまで沈んでいた気持ちが一瞬で上がった。
恐る恐る手を伸ばすと、久我さんはその手をそっと握ってくれる。
手を包む長い指に、嬉しさが込み上げる。
軽く握り返しながら、私たちは駅前の道を歩き出した。
「……あ、だから昼間も余計なこと言うなって言ってたんですか?」
「あぁ。お互いの関係性を理由に、周りに気遣われたりひやかされるのもいやだし」
たしかに……。
久我さんを冷やかすような勇気がある人はなかなかいないかもしれないけど、私に対して『魔王の恋人』と気を遣う人はいるかもしれない。
それはそれで仕事がやりづらいかも、と納得させられる。



