「……手、つなぎたいです」
「え?なんだよ、いきなり」
「ちょっとでいいですから。彼女だし、手つなぐくらいいいですよね」
自分でも情けなくなるくらい、必死だ。
だけど少しでも、彼の気持ちをこちらに向けたかった。
けれど、久我さんは私からスッと手を離す。
「ダメだ。誰が見てるかわからないからな」
拒否、された。
いつもと変わらないはずの、その冷静な口ぶりが今はやけに突き刺さる。
『誰が』って、誰のことを指してるんだろう。
部下?上司?
それとも……小宮山さん?
胸の中で自問自答をして出た答えに、胸の奥が締め付けられるような苦しさを感じる。
たかが、手をつなぐことを拒まれただけ。
それだけのことなのに、悲しくて、恥ずかしくて泣きそう。
その感情をぐっと堪えて、そのまま私たちは会話なくエレベーターに乗り、1階で降りた。
この時間ということもありひと気のないエントランスには、一定したテンポの彼の革靴の音と、小走りな私のヒールの音が響く。
互いの距離は、上司と部下にしては近く、恋人同士にしては遠く、微妙な間を保っている。
……気まずい。
変な嫉妬心から、あんなこと言うんじゃなかった。
久我さんの一番は小宮山さんだってわかっていたはずなのに。
わかっていても、拒まれるとさすがにへこむ。
苦しさをこらえるように唇を小さく噛んだ。
そのうちに私たちは建物から出て、人の行き交う駅前へと向かい歩き出す。
「ん」
するとその時、突然久我さんが足を止め、私に手を差し出した。



