そんなやりとりをするうちにパソコンはようやく動き、無事データは保存された。



「よかった~……データ消えたらどうしようかと思ったぁ」

「こまめに保存かけないから焦るんだ」



安堵する私に久我さんはポンッと軽く頭を叩き、自分のデスクにファイルを戻して荷物をまとめる。



「ほら、霧崎も早く支度しろ」

「え?」

「この時間だ、送ってく」



送って行ってくれる、なんて……。

本物の恋人みたい、と思ってから、恋人になったんだったと思い出した。



成り行きでなった関係でも、ちゃんとこうして恋人らしく扱ってくれるんだもんな。やっぱり、優しい人だ。

またひとつときめきを覚えながら、私は慌ててデスクの上を片付け、バッグを手にした。



「久我さんも残って仕事してたんですか?」

「会議が長引いてな。さらにその資料をまとめてたらこの時間になった」



疲れを見せることなく言う彼とともに、部屋を出る。



廊下を歩き出すと、隣の第二営業企画部のドアが開いたままになっているのが見えた。

すると、隣を歩く頭ひとつ分高い位置にあるその目は、部屋の前を通り過ぎながら自然と室内に向けられた。



なにかを探すようにチラッと見た、そのたった一瞬だけで、彼が誰を探しているかなんてすぐわかった。



『……りさ……』



先日の、彼のささやく声が思い出されて胸にチクリと刺さる。



……やだ、な。

彼女を、見つけないで。



こみあげる嫉妬心から、つい彼のスーツの袖を小さく引っ張った。

その感覚に少し驚いたように、久我さんは視線を部屋から私の方へと向ける。