「いいですね、温泉。旅行いかれたんですか?」

「うん。土日に彼氏と群馬まで行ってきたんだ」



嬉しそうに笑って言う先輩の『彼氏』という言葉にピクッと反応する。

いいなぁ。私も彼氏の話したい。『私の彼氏そこにいます』って久我さんとのこと公言したい。

でもそういうの、久我さん嫌がりそうだなぁ。



チラッと彼のデスクの方を見ると、久我さんはちょうど電話を終えたところらしく、スマートフォンをしまいながらこちらへ目を向ける。



「霧崎、ちょっと」

「え?あっはい」



そして突然手招きをされ、私は席を立ち彼の元へ駆け寄った。



「この企画内容に変更が出た。イベント企画部の担当にも共有してくれ」

「わかりました」



久我さんから差し出される書類を受け取り内容を確認していると、彼は「あと」と言葉を付け足す。



「……周りに余計なことは言わないように」



ぼそ、と小声で言いながらその目は鋭く私を睨む。私の視線からなにかを察したのだろうか。



「……はーい……」



しっかりと釘を刺されしゅん、としょげながら部屋を出る。