「むがっ」
「あぁ、昨日の仕事の話だな。どれ、見てやるからこっち来い」
そしてそのまま、近くの小会議室へ私を連れて行くと、人目を遮るように鍵をかけた。
ふたりきりになりようやく離された手に、私は「ぷはっ」と息を吐く。
「もう、いきなりなにするんですか!」
「それはこっちのセリフだ!人前でいきなりなんの話をしようとしてるんだ!」
「なんの話って、もちろん昨日のことですよ!」
『昨日のこと』、私が切り出したその話題に久我さんはそれまでの涼しい顔を、気まずそうに歪めた。
「……やっぱり夢じゃなかったか」
「ってことは、やっぱり夢じゃなかったんですか!」
頭を抱えて悩ましげに言う彼と、喜びを隠せず思わず笑う私。
それぞれ真逆の表情に、同じ言葉でも全く意味合いが違うものに聞こえる。
「久我さん、普通の顔してたから、てっきり私の夢なのかと思っちゃいましたよ」
「そりゃあ、信じられるかよ……。起きたら同じベッドに部下がいて、しかも服も着てなくて、昨日の記憶もまともにないなんて」
夢だと思い込もうとしたのだろうか。私を起こすことなく逃げるように家を出る彼を想像するとちょっとかわいい。
けれど、その反応はやはりどちらかというと話題に触れて欲しくないといったように見える。
「……やっぱり、後悔してますか?」
胸に浮かんだ問いかけを、そのまま言葉に表す。



