久我さん、昨日のことなんてなかったかのように、いたって普通だった。
もしかして昨夜のことは、私の妄想混じりの夢だった?
いやいや、ない。それはないでしょ。
だってついさっきまで久我さんの家にいたんだし、昨日のことだってしっかり覚えているし……。
そう思うけれど、あまりにも自然な彼のその態度に自信がなくなってくる。
まさか……なかったことにされたとか?
それならありえる。ただの部下と酔った勢いで寝た、なんてお酒の失敗で片付けてしまうかもしれない。
納得できるけど、そんなのやだ……!
私にとっては一世一代の勇気を出したんだから。
「はぁ……」
鏡の前で悩み、髪をぐしゃぐしゃとかくと、元々寝癖で乱れていた髪がよけい乱れる。
……ダメだ。ひとりで考えていてもなにも解決しない。
久我さんの気持ちを確認したい。
そして、なかったことになんてしないでほしいって。昨夜のようにもう一度、勇気を出して気持ちを伝えよう。
ひとりそう気合を入れ直すと、私は髪を整えると気を引き締めるようにひとつに結う。
そして化粧を上塗りして、どうにか身なりを整えた。
とりあえず仕事に取りかかり、迎えた昼休み。
食事に行くのか、オフィスを出て行く久我さんに、私も慌てて後を追いかける。
「久我さん!あの、昨日のっ……」
勢いのまま、人が行き交う廊下で声をかけた私に、久我さんはぎょっとおどろくと口を手で塞ぐ。



