「いやいや、そんなわけないです!昨日酔っ払ってそのまま寝ちゃって、今朝時間がなくてそのまま来ただけで!」



苦しい言い訳かな。さすがの私でも服くらいは着替えてくるだろうと疑われてしまうかも……。



「なんだ、そういうことか。霧崎さんならありえなくもないね!」



けれど、心配をよそに、みんなはすんなりと信じて納得した。



よかった、信じてもらえた……って、私ならありえなくもないってどういうこと。

疑われたくないけど、すんなり信じられるのもそれはそれで複雑だ。



なんともいえない気持ちを感じながらも言葉にできずにいると、ふいに背後から柔らかいものでポコンと頭を軽く叩かれた。



「霧崎」



頭上から響くその低い声に、一瞬で全身が緊張する。

固まりそうになる体でゆっくりと振り向くと、そこには今日もきっちりとスーツを着た久我さんがいた。



手にしている、書類を筒状に丸めたもので私の頭を叩いたのだろう。

いつもなら『なにするんですかー!』と言えるのに、今日は心臓が一気にうるさくなって上手く言葉が出てこない。



「く、久我さん……」



けれど、そんな私に対してもその黒い瞳は冷静なままだ。

どうしよう、どんな顔をすればいいんだろう。久我さんは昨日のことをどう思っているんだろう。

あれこれと思考をめぐらせる私に向かって、久我さんは口をひらく。



「とりあえずトイレで寝癖くらい直してこい。そしたら早く仕事にとりかかれ」

「え?あっ、はい……」



あれ、いつも通り?

普段と変わらぬ淡々とした口調で言われ、拍子抜けしながらも、私も普通に返事をしてトイレへと向かった。