茶色いドアを開けた先には、先ほどの寝室よりさらに広いリビングが広がっている。
街を一望できる大きな窓と、L字のソファ。
最新型の大きなテレビとローテーブルと、綺麗すぎる部屋のせいかあまり生活感は感じられない。
けれど端に飾られた観葉植物がちょっとオシャレで、久我さんのこだわりを感じさせた。
久我さんは、いつもここで暮らしてるんだ……。
初めて彼のプライベートな一面を見ることができて、ちょっと嬉しい。
そう思いながらテーブルへ目を向けると、そこには一枚の紙と鍵が置いてある。
「鍵……?」
見るとその紙には整った字で『鍵はポストの中に入れておくように』と書かれている。
久我さん、私が家を出る用に鍵を用意しておいてくれたんだ。ということはもう先に出たってことだよね。
あれ、そういえば今何時……。
ふと時間が気になり、壁に掛けられた時計へ目を向ける。
白の文字盤と黒の針が示す時刻は、8時50分。
うちの会社は始業時刻が9時だから……つまり。
「遅刻だ!!」
それに気づくと私は慌てて鍵を手に取り、バッグを持ち部屋を飛び出した。
久我さんの家から少し迷いながらもなんとか駅に着き、赤坂を目指し電車に乗り込む。



