久我さんの胸に耳をあてると、ドク、ドク、と心臓の音が聞こえる。
好きな人の腕の中にいられるなんて、夢見たいだ。
……勇気がなくて言えずにいた言葉も、今なら言える気がする。
『あなたのことが好き』、そのひと言を。
彼のシャツをギュッと握って、勇気を出して声を発しようとした。
「……りさ……」
ところが、その低い声がぽつりと呼んだのはひとつの名前だった。
『りさ』……?
って、そうだ。小宮山さんの名前だ。
小宮山莉沙という彼女のフルネームを思い出して、ドキドキしていた気持ちは一気に冷静になる。
……最低。
酔っているとはいえこんな状況で、小宮山さんの名前を呼ぶなんて。
でも、それくらい彼女を想っているということだ。
彼が今抱きしめているのは私なのに、やっぱりその目に私は映っていない。
その現実を、こんな状況で思い知る。
わかっていても、やっぱり突きつけられると悲しい。苦しくて、今すぐこの体を突き離して逃げ帰りたい。
……だけどその一方で、そんな彼の隙につけ入ってしまいたいと思ってる。
「……私を、代わりにしてください」
彼の胸に顔を押し当ててつぶやいたのは、覚悟を決めたひと言だった。



