その日の夜。
会社からほど近い居酒屋では、小さな店内を貸し切っての飲み会が行われていた。
「みんな、先日のプロジェクトお疲れ様!乾杯!」
イベント運営部の部長の声を合図に、みんなは乾杯をして、テーブルの上の料理に箸を伸ばす。
その中で私も同様に、グラスの中の甘い酎ハイに口をつけた。
飲み会といえば、男女が近づく絶好のチャンスだ。
お酒の勢いを借りて、久我さんといつもより和気あいあいと会話がしたい!
そう思い、彼がいる奥の席へと目を向ける……けれど。
「久我さん、サラダ取りますよ。あとなにかほしいものあります?」
「ビールで以外もありますよ、注文しましょうか」
久我さんの周りは、イベント運営部の女性社員たちによってしっかりと囲まれている。
サラダを取り分け、メニューを手にする彼女たちの目は笑いながらもギラギラとしていて、他の人を寄せ付けないオーラを放っている。
飲み会を絶好のチャンスと捉えるのは私だけじゃないらしい……。
仕事中は『魔王久我』と言われるだけあって近寄りがたいけれど、こういった席でなら近づけるだろうということなのだと思う。
気持ちはわかる……わかるんだけど、私も久我さんの近くに行きたい……!
けど私のような年齢もキャリアも下っ端ではあのグループに近づけない。
悲しいけれど久我さんがいる席からは離れた位置に座る。
そんな私の両隣を挟むように座るのはイベント運営部の中年男性たちだった。



