冷徹部長の溺愛の餌食になりました




「あっ、清人!この前の企画の件なんだけど……」



黒い髪をなびかせて、華奢な指先で彼の腕を掴む。

その距離で彼を『清人』、と呼ぶ女性は彼女しかいない。



「莉沙。あの企画書、ページいくつか抜けてたぞ。しっかりしろ」

「えっ!うそ!」



そして、彼女を『莉沙』と呼ぶのも彼しかいない。

そんな呼び名ひとつにもふたりの親密さを思い知らされ、胸がまた少し痛む。



久我さんに一年も片想いしながらも告白できない。

その一番の理由は、彼には好きな人がいるから。



はっきりと久我さん自身の口から聞いたわけじゃない。

けれど毎日彼を目で追ううちに、その視線の先にあるのはひとりの女性であることに気づいてしまった。



彼女……小宮山莉沙さんは、隣の部署である第二営業企画部に所属している。

久我さんとは同期で同い年。

飾らないロングヘアとタイトなテーラードジャケットがよく似合う、長身細身の美女だ。



抜群なスタイルに目鼻立ちのはっきりとした顔。

さらに性格もサバサバとしており、いつも笑顔で、仕事もできる。年下からも年上からも人気がある人だ。



そんな彼女を、久我さんはいつも自然と目で追いかけている。



簡単に言葉にはできないのだろうその想いの大きさを知ってしまったら、私も告白なんてできない。

失恋するとわかっていて当たって砕けるくらいなら、こうして部下として近くに居られるだけで充分だって思ってしまう。



遠くなるふたりの後ろ姿は、大人の男女といった雰囲気でよくお似合いだ。

それを目の当たりにして、先ほど一瞬浮いたはずの心がまた沈むのを感じた。