今夜、キミを独り占め。




「あれ、郁の知り合い?」

さらには光原先輩の友達であろう人の視界にも私が入ってしまう。


「んー、そうなるのかな」
「どういうことだよ」

「笹野さん、もう今は大丈夫?」
「……っ」

ほら、やっぱり。
やっぱり彼は私の名前を知っている。

どうして?


「華蓮ちゃん…!」

考える間もなく、私の後についてきた真由の声が聞こえてきて。

結局光原先輩の質問に答えることができず、顔を背けて他人のフリをするというバカな選択を取ってしまった。


せっかく謝罪をして、お礼を言うチャンスだったというのに。

私はどうしてここまでバカなのだろうか。


とは言え一度避けてしまったのだ、もう今更手遅れだろう。

心の中では何度も謝りつつ、私は足早に東館へと向かった。