けれどそこまで走ることなく学校の門が見え、さすがに立ち止まった私。
「華蓮ちゃん…!
いきなり走ったからびっくりしちゃったよ」
「ごめんごめん、もう走らないから」
「絶対だよ…?」
「うん、絶対ね」
念押しされたため、ゆっくり歩くことにした。
けれど───
「おっ、郁じゃん!」
「……っ!」
本館に入ってすぐ、男の人の声が聞こえてきて。
さらに私の探している“彼”の名前を呼んだものだから、思わず足を止めた。
「華蓮ちゃん?」
真由に不思議そうな顔をされたけれど、反応ができない。
「どうした?郁、最近遅いんだな」
「ギリギリまで寝たいから電車一本遅らせてるんだ」
「へぇ、郁がそんなことするなんて珍しい」
「最近睡眠時間が短いからさ」
この声、確かに光原先輩のものだ。
昨日も聞いた優しく穏やかな声。



