知らない、というのに。
どうして私の名前を知っていたのだろう。
自己紹介もしていないのに、彼は確かに『笹野さん』と口にした。
「華蓮ちゃん?聞いてる?」
「は、はい…!」
「やっぱりぼーっとしてるよ?
まだしんどいんじゃ…」
「いや、本当に元気になったから!」
それだけは確かであるため、胸を張って答えたけれど。
「じゃあどうして様子が変なの?」
「うっ…」
さらに深く聞いてくる真由。
彼女は鈍感なのか鋭いのかわからない。
「は、早く学校行ってノート見せてほしいな!」
「へ、華蓮ちゃ…」
「だから早く行こう!」
「ま、待ってよ早いよ…!」
本当のことを言えるはずもなく、私は真由の手首を掴んで走ることにした。



