「なんつー顔してんの?」

いきなり頭の上から低い声がした。
振り返ると遊馬くんの友達の森山くんだった。

「森山くん。」

森山くんは遊馬くんと同じ陸上部で、短距離走の選手だった。
大会でも記録を残していて、よく全校集会でも遊馬くんと一緒に名前があがる。

長身で、短めの髪の毛に、がっちりしたタイプの男の子。
同じクラスになったことはないけれど、
休み時間、遊馬くんとよく、一緒にいるのをみかける。


森山くんは、人付き合いもよくてノリもいいし、カッコいいからモテるって、かなちゃんが、話ししていた。

そして、とても、女の子に優しいって。

ただ、、 
それは私以外の人限定。

私にはなぜかいつもポーカーフェイスで不機嫌そうな顔ばかり。
口調もそっけない。
優しいわけでもないし、どちらかというと、ツンツンして怖い。

私はあまりいい印象はなかった。


「悲しそうな顔、なんでしてんの?」


「えっ?」
「森本さん、遊馬が田中さんといるとき、いつもそういう顔してる」

まっすぐに、まるで、見透かされているかのような視線。

「そ、そうかな」

思わず視線をそらす。


「まぁ、なんとなく、わかるような気もするけど。」
田中さんと遊馬くんが二人並んでグランドに向かうすがたを一瞥して、ため息をついた。

なんで、ため息?森山くんが??

「あんまり・・・」
「えっ?」

森山くんがすこしうつむいて視線を落とした。

「あんまり・・そういう顔みせないほうがいい。」
「・・・・」




「そういう顔しているの見ていると・・俺が」

「・・?」

森山くんが私に視線を戻してすこし切なそうな何か言いたそうな顔をした。
けれど
すぐにいつもの無表情な森山くんに戻った。

「なんでもない。今日も遊馬とかえるの?」
「うん」



森山くんは、そっか、と、つぶやいて、グランドへ戻った。

なんだったんだろう?
何かいいかけたことがあった?

森山くんの様子が気になりつつも、私は部室へと移動した。


森山くんと話ししていたことを、遊馬くんがみていたことにその時のわたしは気がつかなかった。