「返事、今月中だから、よく考えてくれ」
「はい」

進路相談室を後にして
一つため息。

推薦は受けないという話をしたのに
何度も考え直してほしいと言われるのも疲れてきた。


いい加減・・
考えないといけないか・・・。

T大学は
偏差値も難関大学で陸上もレベルが高い

あえて推薦を断る理由なんてない。

でも・・・。

「・・・・・」

思い浮かぶのは・・・

好きすぎて 
大切な人。

離れてしまうことに
不安だったのは自分のほう。
だから、確かめた。
、、、、確かめたかった。

疑っているわけじゃない。
ただ自分が不安なだけだった。


「何してるんだか・・」

自分の不安を取り除きたくてしたことが
ゆららを傷つけた。

「佐倉先輩!」
「田中さん」
背後から声をかけてきたのはマネージャーの田中さんだった。

すこし、重い表情をしている。

おそらく、僕とゆららに起きていることも知っている。
そして、きっと自己嫌悪にもなっているのだろう。


「・・・佐倉先輩、ごめんなさい!」
「どうしたんですか?」



彼女の目はすこし潤んでいた。
泣いてる?


「佐倉先輩が森本先輩と、、、その、、、喧嘩しているって聞いて」
「・・えぇ」
「、、わたしのせいですよね。」

なにもかも彼女のせいにしたら楽かもしれない。


だけど・・

「そんなことないですよ。いずれ大学のことは隠していてもわかってしまうことでしたから。」

「でも、私が、、、、私が」
田中さんは目を真っ赤にして泣き出した。
小さい肩が震えている。

「僕は田中さんや部員のみんなが思うほど、陸上に夢中でもなければ、力を入れているわけではないんですよ。」
キョトンとした顔で田中さんは僕を見つめた。

「僕は陸上部のみんなの中では一番、いい加減で不純な動機で陸上をしていると思います。
まじめに、好きで取り組んでいるみんなに言ったら軽蔑されるくらいの、本当に情けない動機です。」


「先輩?」


「僕は、陸上でトップになりたいとか、ましてや好きでしている・・わけではないんです。」

「森本先輩のため、ですか?」

田中さんは静かに、僕の答えを待っていた。
そして、すこし顔を赤くしていた。

「羨ましいな、森本先輩が。私、ずっと佐倉先輩を見てきました。、、だから、なんとなくわかっていました。佐倉先輩が陸上をしているのは、森本先輩の笑顔が見たいからなんだろうなって。」

涙を目にためて田中さんはぎこちなく笑顔を作る。


「佐倉先輩の飛ぶ姿を美術室から見ていた森本先輩はいつも笑顔でした。笑顔で佐倉先輩を見ていて、高く飛ぶ姿を嬉しそうに見つめていました。」


ふと、ゆららのいる美術室に目を向けると、微笑んでいるゆららと目が合うことが多かった。
練習で、高く飛べた時、ゆららを見るといつも嬉しそうにしていた。

ゆららがほめてくれるから、ゆららの笑顔がみたくて、高く高く、、空に届くよう飛んでいた。


「佐倉先輩」

田中さんは深く深く頭を下げていた。

「部外者なのに、大学のことを言ってしまってごめんなさい。お二人を傷つけてしまいました。」

「頭をあげて、田中さん」

「許してもらえるとは思いません。でも、謝りたくて」
深く頭を下げて、膝の上で重ねている手は震えていた。

彼女のことを、責める気持ちなんてなかった。
彼女がしたのとは
僕たちが揉めた原因のきっかけの一つでしかないし、いずれ遅かれ早かれこうなっていた。

それに、、


「田中さんも苦しかったでしょう?罪悪感で悩んでいたんじゃないんですか?」
「えっ?」
驚いたように田中さんが顔を上げた。
僕が許さない、と激しく怒ると思っていたのだろうか?

怒ることなんてできない。
一番悪いのは僕だから。

「部活の時、辛そうでしたから。もしかしたらと思って。でも、もう大丈夫ですよ。まぁ。、、でも、今はゆららに距離を置こうと言われているし、もしかしたらこのまま別れ」
「私、お二人が羨ましかった。お互い必要として必要とされてて。お二人はずっと一緒なんだって思っていました。」
「、、、、」
「私は佐倉先輩が好きで、私の方が陸上にも、詳しいし先輩のサポートだってできる。森本先輩より、私の方が先輩の近くにいた方が良いって思っていました。だから、森本先輩にとても嫉妬していました。悔しくて、、そして森本先輩が、、」

とても嫌いでした-----------